古典紹介(2): The Meaning of The Bruyère. (about Smoke. Alfred Dunhill Ltd.,1927)2009/12/01

The Bruyereの中表紙
Figure 1  "Tree Heath or Bruyère". about Smoke.(1927)
              ( ”Fine Pipes International” > original text)


----------------------------      Abstract   -----------------------------
   エリカアボレア(一般的な名称は英名ヒース、仏名ブリエール)からパイプ用に採取される原木のうち、dead-root をもつ原木をBruyère と呼び、それ以外をBriarと呼んで原木名称を使い分ける。 dead-root とは数世紀を生きた後に自然に立ち枯れたエリカアボレアの根茎の意味である。
 dead-rootから作られたパイプには原木名を冠してBruyère Pipeと名づけた。Bruyèreパイプは長年使用しても快適な使用感が失われない。このパイプを作る際、研磨工程
polishingと仕上げ工程 finishingにおい
て油以外の材料は必要なく、特徴的な美しさをもったブリエールパイプBruyère が完成する
  一方、 dead-root を持たない原木をBrair と呼ぶ。地上の幹が生きている状態の木から採取したパイプ用材がBriar rootブライヤ-の根である。安価なブライヤ-パイプは使い初めて直ぐに臭気を生じるようになるので、我慢しながら時間をかけてパイプを馴らす必要がある。
 dead-root はエリカアボレアが長時間かかって枯れてゆく過程で形成される。この間樹液が抜けながら同時に抜け跡を繊維が閉ざしてゆく。その結果として、密実な組織が形成されると考える。一方でBriar は、白っぽい色をしていて松材に似ている。これはどのように乾燥seasoning させてみても樹液が抜けた跡が小さな孔として残り、多孔質になる。こうした用材組織の形成過程の違いが使用感の違いに現われてくると考える。
   Keywords   ==============================
Tree Heath or Tree Bruyère, Erica Aborea,
Bruyère, dead-root, Briar, Briar root,  immature Briar, The cheap Briar
Seasoning, Oil_polishing & Oil_finishing.
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  当ブログは、H.Dunhillの著作を読んでいる最中で、参考にするためにブリエールの解説を読んだ。原文と訳文は長くなるので別記事にした。ここには、A.Dunhillのブリエール(Fig.1)を読んで書いた要旨を上に紹介した。
 1927年版 "about Smoke" An Encyclopaedia of Smoking は以下の順に綴じられている(Fig.2)。
1.表紙(カラー)
2.中表紙
3.パイプ使用時の注意書き(11項目・箇条書き・全16行)
4.ダンヒル社の店舗写真(外観と内部で3枚)
5.世界の販売代理店リスト
6.ブリエールパイプ編の中表紙
7.木(ブリエール)のスケッチ
8-10..ブリエールの解説(全3頁、挿入写真4枚)
11. 保証書(カラー)
12.   パイプカタログ(1ページに4つのパイプ)
パイプのカテゴリー(『パイプ美術館』調べ, pはページ数)
・Dunhill Bruyère pipe (p.32)
・The Tweenacts (p.1)
・Specimen Straight Grains  (p.2)
・Pipes of Unusual Shapes  (p.2)
・Pipes with Special Mouthpieces  (p.1)
・Bruyère" Churchwardens"  (p.1)
・The Dunhill Bruyère in hard leather case  (p.3)
・Pipes for Motorists  (p.1)
・Ladies' Pipes  (p.1)
・Ppie Gloves, ・Mouthpieces, ・The Inner Tube  (各p.1)
・The "Shell Briar"(regd)   (p.5)

about Smoking
Figure 2   Showing  photographs of  "about Smoke"

                                          
 Terminology
・樹木名ヒースあるいはブリエールから採取したrootの中で、dead-rootを使用して作ったパイプをBruyère pipe, 地上部がまだ生きている木の根を採取作ったパイプをBriarpipe と呼んでいる。ブライヤ-パイプの中でも特に安価なものを”the cheap Briar” と呼んで、 Bruyèreと対比して材質とパイプの使用感の特徴を比較している。 Briar pipes の内で、not-cheap な Briarに関する記述は、この資料にはない。
・Bruyèreの仕上げには Oil 以外の材料を使わないと明言している。この時代にはブラ
イヤ-パイプの最高位グレードのカテゴリー名に、フランス語表記をそのまま残している点が注目される。
・19世紀末までは、立ち枯れ状態ではないBrairからも、実際上の品質はdead-root と同等なパイプができた。このパイプはBrairとして販売していたが、事実上はBruyèreあった。Briarの中でBruyèreには及ばないものをimmature Briarと呼んでいる。
・20世紀に入るころには質の良い原木の供給が減少して、特に近場からの入手は困難
になった。
・ 1927年の執筆当時では、Brair中には植林して数年育てた程度の材料が出回り始め
ている。このような幼木から採取したBriarが混在する当時の平均的なBriarをcommon
Briarと称している。

Discussion
・樹木が立ち枯れる原因には老木化以外に、病害虫による場合、山火事による場合な
どがある。ダンヒルのdead-rootは採取して、パイプに加工した時の品質がどうかが問
題である。 生物学的定義による立ち枯れという意味よりもパイプ材料としての質が、
dead-rootか否かを定める重要な要素となっている。
・樹木は、そもそも生木といえ、内側にはdeadな細胞が蓄積されている。成長する細胞は上下方向には枝か根の先端に、横断面でみれば最も外側にある。これら成長箇所の
外の部分は、それは樹木の大部分を占めるが、deadと云えなくもない。つまり1本の樹木の中に生と死とが共存している。
・ダンヒルの見方では、樹齢が世紀を超えるような樹木の内部では、dead な細胞からも水分やsapがなくなり、それを貯めていた周りの繊維壁が潰れることで”抜け跡の空間”が閉塞され、全体として密実な組織が出来上がるとする。この状態がパイプ材質としては最良の状態であり、また樹木として最後の姿でもある。しかしこの状態が木の内部に出来上がっていても、1本の木の全体が生物学的に死んでいるということにはならない。樹木には本来、生と死が共存しているからである。完全なパイプ材料が採れるような老木でも、地上部が立ち枯れていなければ春には新梢が芽吹く。
・1927年の時点では、パイプ材料として完全でかつ立ち枯れたエリカ・アボレアから採取して作ったパイプを Bruyère、材質の問題は無くても立ち枯れていない木から採取した材料で作ったパイプはBriarと呼んで区別したようである。
 Briarと銘が打たれても、19世紀では老木から採取していて、材質は実質的にBryere
であった。20世紀の当時ではすでに良質なBriarが少なくなり、代わりに幼木から採ったような低品質なものが混在する状況となっている。この20世紀前半のBriar全般の平均的な材質をcommon Briarと呼び、使い始めて間もなく臭気が生じると云っている。
・最後の文は逆さに読めば、低品質のcommon Briarでも気長に我慢しながら馴らせば、改善できるということ。さらに次に来る時代の状況を予見して、反語で結んだのだろうか ---と解釈したいところである。               
                                           
・ダンヒルは原文で、エーゲ海島嶼部の石灰岩ではなく、crystalline rock が分布する
地区のヒースがパイプ材として上質だと云っている。この一文では、石灰岩はnon crystalline rockであると正しく認識していることが注目される。岩石の分類は、19世紀末から偏光顕微鏡を使用して主としてドイツを中心に進み、第一次大戦後にイギリスが中心的位置を占めるようになった。原文が書かれた1927年は、イギリスでも黎明期といえる時期である。その頃に専門家でもないダンヒルが、crystalllineとnon crystalline rockの認識を持っていたことに驚かされる。
 しかし事実関係としては、石灰岩であれば割れ目が多いとか、逆にcrystalline rockであれば割れ目が少なく硬いという訳でもない(岩石名は書かれていない)。一方イギリスのThe Heath Societyの解説を読むと、エリカアボレアは石灰質土に対する耐性が強くないとある。以上を勘案すると現代であれば、『エーゲ海のある島々では非石灰質、中性~酸性の土地で、硬い岩山に自生したエリカアボレアの老木から良いパイプ材が採れた』---という経験則に書換えることになるだろう。          -以上-

別記事にて、A.Dunhilの用語が30年後に、H.Dunhillの著書の中でどのように変わっているか、また変わっていないかを整理する予定である。
なおabout Smoke に関するF.I.P.所蔵写真の転載は許可を得ました。

<Acknowledgments>
    I express my sincere gratitude to Dr. Samuel Goldberger of Fine Pipes Internationalfor showing us the valuable articles of  "about Smoke",  his Gallery in F.P.I_web site.The figures in this article belong to F.I.P.