どこかが怪しい話2012/11/10

11月9日金曜・仏滅
 NHK総合テレビで午後7時30分から,”ナビゲーション 福井▽大飯原発に活断層?揺れる議論の行方”という番組が放映された-番組名は新聞の番組欄の書き写しです.放送時間は約30分で,全国ネットではなく地方向け番組かもしれません.
 福井県大島半島の先端にある大飯原子力発電所の地盤は,次のような流れの中で翻弄されつづけているようです: 事業者の事前調査(活断層調査)は怪しい ⇒ 発電所の北側に新たに断層観察用のトレンチ(溝)を2つ掘った ⇒ 5名の学識経験者が現地で観察・検討したが結論を出せず,東京で2回目の検討を行った.その検討結果は<破砕帯を伴う断層はあるが,それが活断層であるか否かが判断できなかった.それで新たに別のトレンチを掘り,もっと確かな証拠を探す> この番組で経過だけはおさらいできましたが,活断層と呼ばれる断層の判定根拠が逆に分り難く,フツーの断層や破砕帯までもが誤解され易くなったのではないかと危惧します (フツーとは”活断層”と”非活断層”で,つまり総ての断層と破砕帯の実体)
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 放送シーンから次の四つのことが印象に残りました.四シーンは放映順です.
#1. ある委員氏が掘削面に現れている”地質の境”を指して,『これは10数万年前にできた』(具体的な数字を聴きとりましたが,<数>の値を忘れました) と説明されました.曲がりガマでなぞるように示された”地質の境”は,段丘堆積物(推測,説明なし) とその基盤をなす地質(注1)との境界面のようです.
 第四紀堆積物(ここでは段丘堆積物)が分布しているので,その層を貫くような断層が確認されたのであれば,”これは活断層だ!”となったかも知れませんが(注2),そうはならなかった.

#2. 段丘堆積物の基盤をなす地質のなかに,幅20cmくらい(私の目測)の破砕帯らしいものが見えた.破砕帯は詳しく観察するために深さ10cmくらい掘り込んで細い溝状にしてあり溝の両側は堅い岩石で切り立った壁のようです.この両側の壁面はおそらく断層面であると判定されていることでしょう.断層面の傾斜は90度に近いようです.破砕帯を構成する岩石の詳細はテレビ画面からははっきりしません.ただし破砕岩全体の色調は黄灰色.黒くはない(注3).

#3. ある委員氏の研究室?での指摘(公式発言ではないようです):上記した破砕帯で採取されたらしいサンプルの一部を指先につまみ,軽くすり潰しながら, 『破砕帯中の粘土はこのように軟らかい(orもろい)』 ことを示して⇒ 故に『新しい(時期に形成された)破砕帯だ (ろう) 』 という解釈を述べられました.もっと長いインタビューの一コマでしょうから,あのシーンだけ取上げてアアダコウダは上げ足とりになりますが,この推論はかなり疑問.
  
#4. #3シーンの後に,件の”疑惑スケッチ”が改めて放映されました.新しいトレンチから採取した軟らかい粘土と,スケッチに描いてある黄褐色粘土との”地質学的な意味合いの違い”を番組の編集者はお分かりではないらしい-と感じました.スケッチの例では,第四紀層に断層面が接していて,さらに粘土が記号化して?描かれている.観察者の解釈は,図で断層面の左(上盤)の岩石が楔形に剥がされた(侵食された)後に,砂礫が堆積したという接触関係だというもので,口語で俗に”アバットだ”です(注4).
 当方の経験では珍しいとは思いません.山間の谷間には現在進行中の実例?が見られます.しかしレンズ状をした粘土が断層面にくっ付いているので,第四紀断層がズレた際に生じた粘土が残っているのではなかろうかとの疑問も湧きます.カタクレーサイトの観察は,この粘土問題の直接的な解答にはならないことは自明(それだから非活断層とは云えない).観察していないので机上の空論はしませんが,灰色決着以外に落ち着きそうにないナぁ.
 今回の粘土は破砕帯の中にある砂粒混じりの粘土?のようで,上位の堆積物から流入した粘土ではなさそうです.いわゆる断層粘土でしょうが,それが軟らかいから新しいとは云えない.そもそも新しいとは,どれほど新しいことなのか分りかねます.
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注1:日本地質学会のJ-STAGEで,1969年のvol.75,no.11に"平野英雄(1969),福井県大島  半島の超塩基性岩"という論文に半島全体の地質図が載っており,詳しい岩石記載がある

注2: 活断層研究会編”[新編]日本の活断層”(1991)に書かれている<活断層の定義>(p4)内容のうちで,『くりかえし活動し』を示す観察事実はあるか-を無視すれば即決ですネ.ただ,新聞によると第1回目の現地討論会で,ある委員から『2回のスベリを認めた』という発言があった-そうです.しかし同委員は地すべりの可能性を指摘されています・・・その地すべり面とF-6破砕帯との関係が分りませんので,なんとも?.F-6とは別の断層ことかも知れません.何が何だかサッパリです.

注3: テレビ画面を通した観察事実の単なる記述.断層や破砕帯には往々にして黒い物質(何か知りません)が含まれていることがあります,ご参考までに(笑)

注4: 改めて調べてみると,地学事典(初版)にも一応は載っていましたが,活字ではあまり見かけません(当方の分野では).用例としては,観察者の見立てが正しければ,ここのケースで使っても良さそうですが,真実は霧中(苦笑).建物を取り除いて見直しても,決定できるかどうかは分りません(内心は無理).

*補足(11/11):
  活断層の判定は,”ある程度は科学的に進めることができます”.しかしその活断層の断層面または近傍に在る?どこかにズレが生じるかどうかの議論は,いまは未だ”現代の自然科学”水準に届いていない”-しかしこのことは,地形学と地質学の問題.
 社会が正体の不明な断層をどう扱うかは,人間の智恵の問題.大昔から,数え上げることができないほど多くある訳のわからない自然現象と折り合いをつけてきたのが人類史.あの断層の怪しさが,それほど社会に重大であるのか,かなり疑問に感じる昨今,原子力発電所問題によって,地形学と地質学が18世紀末頃に引き戻されてしまったかの感あり(笑)                                   
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あとがき
  新しいトレンチで,F-6が第四紀層(段丘堆積物)と接している箇所が放映されなかった-『これでは視聴者はソレを判断できない』(笑).今回のF-6と昔のトレンチ内のF-6は,別の断層であるかも知れませんが,ややこしい空論は止めます.
  今回のトレンチでF-6にある軟らかい?粘土は,F-6の形成が新しいと云う主張の根拠には なりません.一見正論のように聞こえるかもしれませんが,反証となる断層露頭は簡単に探せることでしょう.岩石や地層の硬軟と云う物理的な性質と形成時期の新旧と間に,単純な経験則は無いハズ.(最近の動向は知りませんが,このような論法で卒論を書いたら,卒業させて貰えません(笑)-『場末にあるとはいえ地質学でも科学だからねぇ』 と云う師の言葉を思い出して,くどく念を押したところで終りにします.
   蛇足:原発を止めるにしても10年くらいの猶予期間がないと,地元の人たちの転職?の準備ができないのでは? 最近のマスメディアは何かにつけて性急なムードをたて過ぎる.ジタバタしてもできることと,できないことがある.