文集　ブリエール 　--- 　”bruyère_acta”　by ignis

タバコ畑が、記憶の一コマに残っている。モノクロ映像である。
 
小学校の校庭の前方に広い畑が広がっていて、通学路はその畑の中にあった。一時期、畑一面にタバコが栽培された。１町歩ぐらいはあったと思う。
草丈が低い時は気にも留めなかったが、ある時期から急に茎が伸びて私の背丈を越え、初めてそれがタバコだと気付いた。『ヒマワリみたいだ』と思って眺めた。記憶の中では、蕾が付く前のヒマワリが、タバコである。

”The Illustrated History of the Pipe”(A.LIEBAERT & A.MAYA,1994)に、ジャワ島、ノースカロライナ、そしてトルコのタバコ畑が載っていました。私の心象風景にどことなく近いトルコのタバコ畑を、図-１に転載します。いわゆる”オリエンタル煙草”の素材だと思います。

図-1　タバコ畑と葉摘みの風景（トルコ、ディディムDidim*）*googleマップ調べ：西岸、エーゲ海を挟んで対岸にアテネ。

晩期の収穫だそうです。草丈が低いこと、畝がなく畑土が砂利だらけと少し違和感があります。しかしおばさんたちのイデタチを見ると、日本の農作業風景に似ていると思います。

『ヒマワリと思った』のは、草の姿を見た子供の印象。その時に、タバコの花は見ていないので、同じ本で探した。図-2に転載します。場所はフランスのドルドーニュ県(Doldogne）。　　　　

図-2　タバコの葉と花 （フランス、ヴェゼール谷the Valley of the Vézère*）*googleマップ調べ：ボルドーの東方約130km。

　ヒマワリの花には全く似ていない。葉は立派ですが花はかなり地味な感じがします。
　『タバコの葉摘みをすると、手が汁で真っ黒になり、体中にくさい匂いが付く。風呂に入っても一週間ぐらいは、手の黒い汚れと染みついた匂いが取れないので、学校に行くのが嫌だった』これは、タバコの収穫に駆り出された母方の従兄の記憶です。『収穫した葉、枯れ落ちた葉など、全部の葉を一枚残らず数え上げることが面倒だった』。　『田植えの方がまし』　とも。

余談：
　休み時間に、『バクダンが見つかった』と話題になった。見たという友達に頼んで、帰りに案内してもらったら、通学路脇のタバコ畑だった。通学路から10mほど入ったところｍの５ｍ四角ぐらいの範囲が刈り取られていた。そこに大きな穴が掘られ掘り返した土の山の上に、錆びたバクダンがゴロンと転がしてあった。小学校の校庭の端からわずか30m付近の位置である。周りには誰もいない。
　畑に立ち入らなくても、通学路からその不発弾はよく見えた。１週間くらい、そちらの方向に視線をやりながらの登・下校が続いた。ある下校時に見たら、無かった。あのタバコ畑で人影を見たことはない。バクダンはどこへ行ったのか、今も未解決のままである。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　-終わり-