古典紹介 (1): ”The Gentle Art of Smoking”2009/11/10

著者: Alfred Henry Dunhill(1954).. G.P.Putnam's Sons
装丁と本文の活字組
図1 装丁と本文の様子。A.Henryが58歳頃(1896年生まれ)、およそ55年前の著作である。

概要:
  A5版くらいの大きさ(略13×21cm)、全177ページ。 文字の大きさは高校の英語教科書ほど。1ページは27行。教科書よりもやや行間が狭い。スケッチと写真がところどころにあって息抜きができる。用語を別にすれば本文自体は中3~高校程度の英文なので興味次第では話について行ける。
 タバコとタバコパイプの製法に詳しく、”パイプの現物”をお持ちであれば、私の場合よりも少ない労力で、--パイプをくわえながら読める--本だと思います。
 本書は次に示す9章からなり、各章が独立した内容となっている。気まぐれにページをめくり、<挿絵と写真を眺めるだけ>も<読んだ気分に浸らせてくれる>良書です。
(一時的には:^^)
 
 この本を読む際に、ダンヒル社とタバコパイプについての予備知識があると理解が深まるでしょう。そのためには、”Ye Olde Briars”(http://yeoldebiars.com/)というウェブサイトの閲覧をお勧めします。ダンヒル社他、英国のいろいろなパイプメーカーの沿革と各社が製作したパイプの特性などがていねいに解説されています。その道にハマり込む危険性を秘めたサイトでもありますが、そこは大人の分別次第ということで・・・。なお本書に関する限りでは、高校生が英文の読解力を養成する目的にも適しています。


紹介:
全体構成は以下(目次)のとおり。
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 Introduction
  Ⅰ The History of Smoking,(p3-)          Ⅱ The Growing of Tobacco,(p31-)
  Ⅲ The Preparation of Tobacco for Smoking,(p45-)
  Ⅳ A Short History of Pipes,(p65-)        Ⅴ How Pipes Are Made,(p93-)
  Ⅵ Cigars,(p114-)                             Ⅶ Snuff,(p124-)
  Ⅷ The Production of Fire,(p140-)         Ⅸ The Practice of Smoking(148-)
    写真版14葉, 挿入スケッチ図28,
    Bibliography,Index.
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  入手は:AbeBook.comで探せば容易. 価格:US$ 10~80程度。

 タバコやパイプについて書かれた国内書籍の多くは、ユーザーサイドの著者によるものがほとんどのようだ(注1)。この本は、製造サイドの著者が書いた例外的な一冊と云える。英語の力不足とパイプやタバコに関する予備知識の少なさは、具体的、写実的な文章が助けてくれる。
 本書は團伊玖磨による完訳(1967)が、”ダンヒルたばこ紳士”(朝日新聞社,当時420円,現在数千円)として出版された。團氏は留学中に、出版直後の本書を英語学習の教本の一つに使い、帰国後に10年を経て”紳士”を訳出したとある。訳本”紳士”はネット上で探しても少ないが、本書は簡単に入手できる。

ダンヒル家の他の2冊;
"The Pipe Book"(Alfred Dunhill,1999年にRichard Dunhillの序文を付きで、Gramercy Booksから復刻されている)
"Our Family Business"(Mary Dunhill,1979., Bodley Head)

  上2冊に比べると、本書が最も読みやすいだろう。本書の第1章は、父ダンヒルの著作の要約である。娘ダンヒルの著書についてはHP"TRINITYSCHOOL"にある『ダンヒルの歴史』という論説の中で、詳細が語り尽くされている。

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一服:
国語辞典で【パイプ(pipe)】は【①くだ。管。②主として・・。③刻み煙草・・】
当ブログの見解では、③に続けて【④ヒトの体のようなもの】            -end.
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 --- ”古いたばこパイプが好き” という方々への案内 ---
  ブログ"England's best pipe value(by sq_bull) に 『ダンヒルのキュアリングに関する考察』(以下『D考察』)と、『サシエニのキュアリングに関する考察』(『S考察』)という連作が公開されている。作者sq_bull氏は、A.Dunhill (1918,PAT.US1341418)と、Joel Sasieni (1919,PAT.GB124410) の特許英文書を訳出して氏の解説を加えながら解り易くまとめられた。両『考察』により1920年代のパイプ製作の後半工程で行われたらしい-油浸漬-加熱・乾燥によってブライヤーを処理する技法の一端と、使用器具の様子が初めて明らかになった。
 本書は1950年代半ばに出版された。Ⅴ章に製作工程の前半が系統的に整理されて具体的な記述がなされている。内容はエボ-ション製作からボウルターニングまでで、機械を使用した工程の全容である。『D考察』で<通常通りのブライヤーの研削> とされている内容に当たると思われる。
 1920~1950年代を”一時代”として捉えれば、『D考察』と本書とが互い補完し合い、当時の工場でパイプを作る工程の全体概要がよりはっきりとしてくる。
  
 本書のBibliographyに10冊の参考書籍があげられている。 タイトルで見る限り”喫煙”の歴史に関する内容が多く、”タバコ製法”の解説はあっても”パイプ製作”にまで言及したものは無いようだ。初期のブライヤ-・パイプの製法(注2)に関心がある方には特に、『二つの考察』と共に本書を一読されることをお勧めします。
 
 V章の一部を『D考察』を参照しながら、別稿で紹介する予定です。

(注1) ”シリウス文庫”(シリウスたばこHP)、”喫煙図書関連”(フレスコワールド復刻版)などに、タバコ・パイプに関して一般・愛好者向けに日本語で書かれた書籍の一覧がある前者には書籍の写真が付けられている。後者には簡潔な書評がある。図書を選択する際には両記事が参考になる。
(注2)現代のパイプ工場の様子は、『深代パイプ工場を訪ねて』(シリウスたばこHP)に、同工場でパイプを製作する手順が写真を添えて簡潔に説明されていて本書を読む際にも大変参考になります。また書籍としては、
The Illustrated History of THE PIPE.(Alexis Liebaert and Alain Maya,1994,Harold Starke Publishers Ltd. 参考価 5K円前後) がある。”図鑑”といった体裁で、写真が鮮明、説明ページも多い(24×28cm,厚さ2cmと大型)。これは仏語原書からの英訳本。ダンヒルの英語に比べれば,、はるかに楽ですが....文字数が多過ぎるので.....目下、.眺める                            - 以上 -